アーカイブ
アーカイブ一覧
第4コホート代表世話人のご挨拶
杉原 茂孝(東京女子医科大学東医療センター 小児科)
小児インスリン治療研究会は、松浦信夫先生、佐々木望先生、雨宮伸先生を中心にしてノボノルディスク社の協力のもと1994年7月9日に第1回研究会を行いました。今年で23周年を迎えます。欧米に比べ、日本では小児1型糖尿病の発症頻度が少なく、個々の医療施設で診ている患者数は、一部の専門施設を除き10人以下がほとんどです。従って、1型糖尿病についてはまとまった研究を行うことが難しく、学会発表もできない、学会に参加しなければ新しい情報も得られず、診療レベルが上がらない、といった悩みを多くの小児科医が抱いていました。この思いを結集して、小児インスリン治療研究会が始まりました。
18歳未満の1型糖尿病患者さんを登録してコホートとし、インスリン治療法、HbA1cの経過、低血糖などの合併症の有無、などについて臨床研究を行っています。
第1コホート(1995年コホート)は、31施設481人の登録で始まり、後に45施設736人に拡大しました。第2コホート(2000年コホート)は52施設808人、第3コホート(2008年コホート)は62施設859人、第4コホート(2013年コホート)は70施設1,076人が登録されています。第3コホートからは遺伝子研究プロジェクトも始まり、現在1,000人以上の1型糖尿病患者さんの遺伝子検体が集積されています。
また、プロジェクト研究として、1)HbA1cの標準化と解析、2)インスリン療法の多様性、3)遺伝素因、4)合併症調査、5)1型糖尿病関連の諸問題(乳幼児症例、成長、肥満、認知機能)が始められ、第4コホートにおいても少し形を変えて継続されています。
第1~第3コホートにおける血糖コントロールの変化を見ると、平均HbA1cは9.3%、8.4%、7.8%と有意に改善しています。これには超速効型、持効型インスリンアナログ製剤の市販開始によるBasal-bolus療法の普及の影響が大きいと考えられます。遺伝素因として、HLA DRB1、DQB1、DPB1、A、C、Bの関与が整理され、CTLA4、BACH2、INS、ERBB3、GSDBMなどのSNPの関与も明らかにされました。その他、多くの研究業績が生まれつつあります。これまでに英文論文18編と和文論文11編が発表され、世界に情報発信を行っています。
現在進行中の第4コホートは2018年2月で終了し、2018年3月から新たに第5コホートが、菊池透先生を代表世話人として開始される予定です。
小児インスリン治療研究会に残された課題として、1)新たなコホートの開始と継続ーより多くの地域からのより多くの症例登録、2)インスリン療法とポンプ治療の今後の展開、3)HbA1cの施設間格差、4)コントロール不良症例の心理社会的問題、5)1型糖尿病における肥満、インスリン抵抗性、6)発症因子としての遺伝因子、環境因子の解析、7)1型糖尿病患者の健常同胞の発症リスクと発症予防、8)小児インスリン治療研究会卒業生の今後の糖尿病合併症調査、などが挙げられます。第5コホートでは、小児1型糖尿病の診療を行っているより多くの施設にご参加いただき、さらに共同研究を進めていけたらと考えています。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。
小児インスリン治療研究会の代1~第4コホートにおける施設数と患者数
メンバーのご紹介
▼研究会創設の中心メンバー【撮影:2004年11月 ISPAD2004(第30回 シンガポール)で】
- 佐々木 望
- 松浦 信夫
- 雨宮 伸